Big4トップの「AI推し」発言はもはや定番ですが、PwC米国のシニアパートナー(US CEO)Paul Griggs氏の一連の発言は、精神論の域を超えています。パートナーですら例外にしない人事方針と、税務・コンサルの一部を「PwCの人間を介さない」ツールとして売る構想——つまり組織と収益モデルの両方に手を入れる宣言です。時間で報酬をもらう専門家全員に関わる話なので、税理士の視点で読み解きます。
何が起きたのか
2026年3月、Griggs氏はPwCの「AIファースト」戦略について踏み込んだ発言をしました。報道された発言の核心は次のとおりです。
- AIファーストであることに危機感を持たないシニア層は、技術を受け入れる人材に置き換えられていく
- 「AIを回避する機会があると考えている人は、ここに長くはいられない」——パートナーを含め、誰も例外ではない(“I don’t think anyone gets a free pass here”)
同時に、戦略の中身も具体化しています。同社は「PwC One」と呼ぶプラットフォームを発表し、クライアントがAIベースの自動化サービスに直接アクセスできる形を整えつつあります。さらに注目すべきは、税務やコンサルティングの一部サービスを、「PwCの担当者を介さずに」クライアントが利用できるAI自動化ツールに転換し、年間サブスクリプションで提供する構想が語られていることです。

背景 ―― なぜ今なのか
この発言は思いつきではなく、PwCが進めてきた流れの到達点です。Big4がAI「導入」からサービスへの「統合」に移った動き、そしてOpenAIとの財務AIエージェント共同開発と、同社は2026年に入って矢継ぎ早に布石を打っています。
構造的な背景は、Big4の収益モデルそのものにあります。従来モデルは「大量のジュニアが時間をかけて作業し、その時間に単価を掛けて請求する」ピラミッド×時間課金です。AIが作業時間を圧縮すると、効率化するほど請求額が減るという自己矛盾が生じます。だからこそ「時間を売る」から「成果物・ツールへのアクセスを売る」(サブスクリプション)への転換が必要になる——Griggs発言の過激さは、この矛盾の深刻さの裏返しです。
シニア層を名指しした点も合理的です。若手はAIを勝手に使い始めますが、投資判断と業務設計の権限を持つのはパートナー層であり、そこが動かなければ組織は変わりません。
税理士の視点で読み解く
①「時間課金の終わり」は税理士報酬の問題そのもの。 日本の税理士報酬も、多くは作業量(記帳量・申告書の枚数・関与時間)を暗黙の基礎にしています。AIで作業時間が数分の一になったとき、同じ報酬を請求する根拠をどう説明するか。PwCの答えは「時間ではなく成果・アクセスに課金する」でした。規模は違えど、顧問料の根拠を「作業」から「判断・責任・アクセス」へ再定義するという宿題は、日本の事務所にもそのまま当てはまります。
②「人を介さない税務サービス」と税理士法の緊張関係。 PwC担当者を介さない税務ツールの直接提供——米国では成立しうるモデルですが、日本では税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の独占業務です(税理士法2条・52条)。つまり日本では「完全に人を介さない税務サービス」には法的な壁があります。ただしこれは安心材料ではなく、「ツール+名義上の専門家関与」という形の参入圧力や、独占業務の外側(税務情報の提供・シミュレーション)でのプロダクト競争として現れてくるはずです。年収の壁計算のようなシミュレーターが良い例で、「独占業務の手前」の領域は既に競争が始まっています。
③パートナー層への圧力は、日本の所長税理士への問いでもある。 「シニアほどAIを学ばない」の構図は日本の事務所も同じです。所長がAIを触らない事務所では、職員の工夫が業務フローに昇格せず、個人技で終わります。Griggs流の恫喝的な言い方を採る必要はありませんが、投資判断者が自分で触ることの重要性は規模を問いません。
④割り引くべき点:号令と実装は別物。 PwC自身の調査でもAI投資の成果は「まだ先」とされており、トップの檄と現場の実態にはギャップがあります。サブスク型税務ツールも現時点では構想段階で、収益の柱になるかは未知数です。「Big4がそう言っているから明日変わる」ではなく、方向は不可逆、速度は不確実と読むのが妥当です。
実務家のアクション
- 報酬の「時間依存度」を測る:自事務所の売上のうち、作業時間を実質的な根拠とする部分が何割かを把握する。そこがAIの影響を最初に受ける
- 「判断・責任」への課金を言語化する:税務判断、当局対応、経営者との対話——時間が減っても価値が減らない要素を、見積・契約書の言葉に落とす
- プロダクト化できる業務を1つ選ぶ:定型の試算・診断・シミュレーションを「ツール+説明」の形にし、小さくサブスク型を実験する
- 所長自身がAIを週1回使う:投資判断者が体感を持つことが、事務所のAI戦略の最低条件