「AIバブルはいつ弾けるのか」という問いに対して、逆側の証拠を積み上げた分析が出ました。著名エンジニアのSimon Willison氏による「AnthropicとOpenAIは製品市場適合(Product-Market Fit)を達成しつつある」という記事です。根拠は雰囲気ではなく価格と支出の動き——値上げしても企業が払い続けているという、最も誤魔化しの効かないシグナルです。顧問先の経費にも税理士自身の業務にも直結する変化なので、整理して解説します。
何が起きたのか
Willison氏が挙げる証拠は、大きく3種類あります。
第一に、価格決定力。 Anthropicは2025年11月にエンタープライズ価格をAPI使用量ベースに変更し、OpenAIも2026年4月にCodexの課金を同様に移行しました。定額使い放題をやめ、使った分だけ払う形にしても顧客が離れない——さらに新モデルGPT-5.5は前世代の2倍の価格設定で投入されています。値上げが通ることは、代替が効かないことの証明です。
第二に、収益の質。 AnthropicはAI企業として初の黒字四半期に近づいていると報じられ、OpenAIのChatGPTは週間利用者9億人超(ただし有料課金は約5.6%・5,000万人)。両社とも営業組織を急拡大しており、OpenAIは職種の32.6%、Anthropicは26.9%が営業・サポート系——エンタープライズ販売への本格的な軸足移動が人員構成に表れています。

第三に、実利用の深さ。 象徴的なのはUberで、2026年第1四半期の新規コードの25%がClaude Code経由とされています。一部の先進企業では、AIエージェントが「試すもの」ではなく「生産ラインの一部」になっています。
Willison氏の中心的な見立ては「2025年11月がインフレクションポイント(転換点)だった」というものです。GPT-5.1とClaude Opus 4.5の世代で、AIエージェントが初めて実用水準に達し、それから約半年を経て、企業が実際の予算を配分し始めた——という時間軸の説明です。UberのAI予算超過やMicrosoftのライセンス縮小といった「失敗報道」についても、同氏は「エージェントが実用化する前の予測に基づく予算のズレが主因」と、過度な悲観論を相対化しています。
背景 ―― なぜ今なのか
この分析は、経営層の81%が「成果はまだ先」と答えながら74%が投資を続けるという調査と、同じ現象の別の断面です。マクロの調査では「成果はこれから」に見える一方、ミクロの価格・支出データでは既に依存が始まっている。コンサル大手の100億ドル投資も、この「実験から予算へ」の移行に賭けた動きとして整合します。
ただしWillison氏自身が指摘する留保も重要です。両社の数字の多くは報道・自己申告ベースであり、監査済みの財務数値はIPO時まで確認できません。「PMF達成」はあくまで状況証拠の積み上げによる見立てです。
税理士の視点で読み解く
①顧問先の経費に「AI利用料」が常態化する。 AIが実験から予算になるということは、顧問先の損益計算書に毎月のAI利用料が固定的に載るようになるということです。API従量課金への移行で金額も変動しやすくなります。経費科目の整理(通信費・支払手数料等の区分の一貫性)、海外事業者への支払に伴うリバースチャージ方式の消費税処理、少額でも積み上がるSaaS契約の管理——地味ですが、関与先対応として今後確実に増える論点です。
②「2025年11月転換点説」は自分の体感で検証できる。 エージェントが実用になったのは最近である、という見立ては、税務実務での体感とも突き合わせられます。1年前のAIと今のAIで、資料要約・文案作成・論点整理の使い物になる度合いがどう変わったか。道具の性能が変わったのに使い方の判断が古いまま、というズレが一番もったいない状態です。
③値上げ局面での事務所のツール予算。 使い放題からAPI従量への移行は、ヘビーユーザーほどコストが上がる構造です。事務所としては、誰が・何に・どれくらい使っているかの把握(利用の棚卸し)が、プラン選択と予算化の前提になります。「とりあえず全員に最上位プラン」でも「様子見で誰も契約しない」でもなく、業務への統合度に応じた配分が現実解です。
④悲観報道と楽観報道の両方を割り引く。 「Uberが予算超過」「Microsoftが契約縮小」という見出しも、「PMF達成」という分析も、それぞれポジションのある情報です。Willison氏の「監査済み数値はIPOまで出ない」という指摘は誠実で、専門家としては、断定を避けつつ支出の実態(顧問先の帳簿)という一次情報を自分の観測点として持てるのが税理士の強みです。
実務家のアクション
- 顧問先のAI関連支出を科目・内容で把握する:利用料の急増や重複契約は、経費レビューの新しい定番論点になる
- 海外AIサービスの消費税処理を確認する:リバースチャージの適用関係を関与先の取引実態で点検する
- 事務所のAI利用を棚卸しする:誰が何にどれだけ使っているかを把握し、従量課金時代のプラン設計に備える
- 半年ごとに「道具の性能」を再評価する:転換点後のAIを古い印象のまま判断していないか、定期的に自分の実務で試し直す