私は新卒以来、一貫して会計事務所で勤務していますが、会計事務所の仕事といえば、皆さんは何を連想されるでしょうか?
私が友人に説明する際は、ざっくり「税金の計算」や「税金のアドバイス」などと答えていますが、実はその業務内容は多岐にわたります。
私が現在勤務している会計事務所は3社目なのですが、それぞれ事務所に規模な業務内容の特徴があり、これまでのキャリアにおいていわゆる会計事務所業務は一通り経験してきたつもりでいます。今回は、そんな会計事務所の仕事内容について、3回に分けてご紹介したいと思います。
中小規模会計事務所の特徴
事務所の規模
中小規模会計事務所は、従業員数数名~数十名もしくは中規模会計事務所でも大きなところでは、百人を超える従業員で構成されます。
私が新卒で入社した会計事務所は従業員数が25名程度でしたので、その地域では中規模とされていました。一般事業会社からすれば数十名程度では小規模法人とされると思いますが、会計事務所の世界では、個人で経営している(オーナー+パート数人)会計事務所が多くを占めますので、従業員数が十人を超えれば、十分な規模の事務所と判断できると思います。(東京と地方で差はありますが、少なくとも地方ではそのような理解です)
従業員の入社動機
パートタイムで勤務されている方を除き、大半が公認会計士・税理士または税理士志望者です。税理士試験は科目合格性を採用しているため、特に20代であれば、多くの方が働きながら資格取得を目指します。(私もそうでした)
また、経理や税務の経験がなく、社会人経験がある方でも、税理士を目指して会計事務所に転職するケースは少なくありません。とはいえ、そういったケースでも、大半は、経理や税務のバックグラウンドを持つ方で構成されます。
仕事内容
ひとえに「会計」や「税務」といっても、その仕事内容は多岐にわたります。私が経験した主な業務を列挙してみます。
- 法人税申告書の作成
- 決算書の作成
- 月次帳簿作成及びチェック
- クライアントへの業績報告
- 会計ソフトの導入サポート
- 経理改善アドバイス
- 銀行との融資交渉同席
- 補助金の申請アドバイス
- 経営計画の策定
- 経営会議への同席
- 個人確定申告書の作成
- 年末調整
- 保険の導入アドバイス
- 相続税・贈与税申告
- 相続税の節税に関するアドバイス
- 事業承継に関するアドバイス
などなど、挙げればきりがないですが、このように「会計」や「税務」に関連する仕事はたくさんあります。会計事務所で勤務したことがある方なら、このような業務は必ず経験していると思います。
つまり、「会計」や「税務」というフィールドにおいて、広い守備範囲が求められます。私が現在勤務している大手税理士法人の部署では、この半分も業務の種類はありません。その分、その分野において高度なスキルが求められます。
なお、私のころはちょうど導入期でしたが、現在であればクラウド会計サポートなども含まれるでしょう。
クライアント
クライアントは、個人事業者から数百人の従業員を抱える中規模法人がターゲットとなります。業種は様々で、「不動産」や「IT」などクライアントの業種を絞っている事務所もありますが、多くの事務所では手広くクライアントを抱えています。
クライアントの窓口は「社長」または「経理責任者」である可能性が高く、特に私が担当していたクライアントでは、直接社長とやり取りをしていました。
当時20代前半の若者が50歳以上の経験豊富な社長と、会社の業績や税金について一対一で話すのですから、今考えると無茶ですね。笑 当時を振り返るとあまりにも知識や会話の引き出しが欠如していたと思います。それでも快く(時にはそうではなかったですが)対応してくださったクライアントの方々には感謝したいです。
得てしてクライアントの「会計」や「税務」に対する知識は低く、数字を用いながら、より端的に現状報告と今後の課題の報告が求められます。特に社長は時間がなく、細かい話は聞いてくれませんので、その場その場が勝負です。
求められる知識
中小規模の会計事務所で勤務するうえで求められる重要なスキルをキーワード化するのであれば、以下のようになるでしょうか。
- 簿記の知識
- 税法の知識(法人税、所得税、消費税)
- コミュニケーション能力
もちろん、相続税まわりや社会保険の知識なんかも必要ですが、キーワードを絞るならこの3つかなと思います。
「簿記」は言わずもがなですね。会計事務所で最初に与えられる仕事は、クライアントの帳簿作成であるケースが多いです。これは、クライアントが用意した証憑(通帳のコピーや売掛帳など)から、会計ソフトを使って、一から帳簿を作成することを指します。
最近の会計ソフトは優秀なので、見よう見まねで帳簿は作成できてしまいますが、簿記、すなわち複式簿記が理解できていないと、入力した結果の妥当性が検証できません。また、例えば複雑な取引があった場合は、会計事務所の人間であれば、例外なく仕訳やT字勘定を使って取り扱いを考えますので、簿記が分からないとその会話にもついていけません。
したがって、入社時には最低でも簿記2級程度の知識は必須ではないでしょうか。(といいますか、簿記2級や税理士試験の簿記論を取得していないと、入社できないケースも多々あると思います)
「税法」のうち、「法人税」「所得税」「消費税」は実務で必要な3大税法です。特に「法人税」「消費税」は必須だと思います。これらの知識がないと法人税の申告書を作成できないためです。会計ソフトと同様、税金計算ソフトも最近は使い勝手がいいものが多いですが、作成した申告書の妥当性を検証するという意味では、これらの税法の知識は必須です。
一方、「所得税」も重要な税法ですが、実は知識が問われる機会はそう多くありません。年末調整や確定申告の際には効力を発揮しますが、それらの業務はある程度流れ作業化されていますし、それ以外のタイミングではあまり登場しないかもしれません。とはいえ、所得税は税法の基礎となる税目だと思いますので、「租税の理解」という意味では、重要な税目でしょう。
「租税の理解」という言葉を登場させましたが、中小規模法人の実務では、アカデミックないわゆる「租税法」の深い理解は求められない可能性があります。これはその事務所の方針にもよりますが、特に実務家タイプの所長であれば、税法への理論的なアプローチを社員に求めるよりは、クライアントへのサービス充実を重視すると思います。一方、研究家タイプの所長であれば、「租税とは」というところから、徹底的に叩き込まれるでしょう。
「コミュニケーション能力」も重要です(というか最重要だと思います)。会計事務所に勤めていれば、20代の非税理士であれ、「先生」と言われたりしますが、会計事務所の仕事はつきつめるとサービス業です。つまり、「会計」や「税務」を通じてクライアントの満足度を高めると作業の繰り返しになります。特に、クライアントの層として、これらの専門家を内部に抱えておらず、会社の数字はすべて会計事務所任せというクライアントが多いため、正確な現状報告と今後の対策を適切にクライアントと共有することが必須となります。
会計事務所の中でも、従業員は「営業マンタイプ」と「研究者タイプ」に分かれます。この業界に入ってくる人は得てして後者が多く、(特に目上のクライアントに対する)コミュニケーションが苦手な方も少なくありません。例えば、本当にコミュニケーションが苦手なのであれば、税法に詳しい「研究者タイプ」を目指し、事務所内で頼られる存在を目指すというのも一つの方法かもしれません。
これらのスキルはすべて必須ですが、最初からすべて備わっている人はいませんので、仕事を通じてそれぞれのスキルを伸ばしていくこととなります。
経験できない仕事の種類
中小規模の会計事務所では多くの種類の仕事に携わることができ、おのずと知識も増えていきます。私も3年たったくらいには、会計事務所の仕事なら大体何でもこなせるかなと思っていましたが、実はそうではないのです。(当時は完全にうぬぼれているだけでしたね)
今ならわかりますが、中小規模の会計事務所では、経験できない仕事もたくさんあります。例を挙げてみます。
- 英語を使った業務
- 国際税務(移転価格税制を含む)
- 官公庁による税制のリサーチ業務
- 連結納税
- 大規模な会計システム導入支援
- 大企業クライアントへのサービス提供 など
もちろん特化型の事務所やある程度の規模の事務所であればこれらの業務も取り扱っていますが、例えば地方の事務所を想定したときに、これらの業務を経験できる機会は少ないのではないでしょうか。
これらの業務ができないことが、なんらその方のキャリアに対しマイナスに働くわけではありませんが、こういう業務も新鮮でおもしろいですよということを私は伝えたいと思っています。(特に国際税務なんかは新しい税務への扉が開く感覚です)
私自身の話をすれば、入社後4年目の時に、英語ができないと今後この業界でも生き残れないと思い、一念発起して米国の会計事務所に転職しました。あの時の決断のおかげで、今はここに記載したような業務に携わることができていますし、結果的に「税務」の世界が広いことを知ることができました。
当然、あのまま事務所に残っていれば、職位も上がり、さらにレベルの高い、難しい仕事にチャレンジできていたかもしれませんが、仕事の幅を広げるという意味では、あの時の決断は正しかったと思っています。
まとめ
今回は、私の過去を振り返りつつ、会計事務所の仕事について解説しました。こういった記事において本当に気になるのは「給与」だと思うのですが、これはその事務所によってまちまちですし、ある程度データも出回っているので、そちらに譲りたいと思います。
今後会計事務所への就職や転職を考えている方や、別の会計事務所への転職を考えている方の参考になれば幸いです。