今回は前回につづいて、役員報酬をビットコインで支払った場合の法人税法上の取扱いを考察します。
従業員の給与をビットコインで支払った場合の取扱いはこちらの記事をご覧ください。
Contents
役員報酬の支給にはルールがある
税務上、役員報酬の支給方法にはいくつかのルールが定められています。ポイントは、法人税を計算をする上で、役員報酬が税務上の費用(損金)となるどうかという点です。では具体的な要件をタックスアンサーで確認しましょう。
平成28年4月1日以後に開始する各事業年度において、法人が役員に対して支給する給与の額のうち次に掲げる定期同額給与、事前確定届出給与又は利益連動給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入されません。
定期同額給与
その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
事前確定届出給与
その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、一定の届出期限までに納税地の所轄税務署長にその事前確定届出給与に関する定めの内容に関する届出をしているもの
利益連動給与
同族会社以外の法人が業務を執行する役員に対して支給する利益連動給与で一定の要件を満たすもの
上記のように法人税法上の役員報酬は3種類に分類できますが、ざっくり言えばそれぞれ以下のような解釈となります。
- 定期同額給与…毎月同額であること
- 事前確定届出給与…届出た時期に届出た金額で支給すること
- 利益連動給与…利益に連動して金額が決定されること
これらのうち毎月の給与に該当する「定期同額給与」について、具体的なケースで確認します。
ビットコインによる役員報酬支給
ケース1:ビットコインベースで毎月同額を支給する場合
例として、毎月1BTCを支給するケースを考えます。
毎月BTCベースで1BTCの支給で年間合計額は12BTCとなり、一方、日本円にすると表の通り毎月金額の変動がありますので、400,000円〜600,000円の範囲で推移し、年間合計額は6,000,000円となります。
定期同額給与は、「各支給時期における支給額が同額であること」すなわち「毎月の支給額が同額であること」が求められますが、上記のような支給方法は認められるのでしょうか。
ポイントはBTCベースでは同額であるが、日本円ベースでは同額ではないという点です。
このようなケースが定期同額給与に該当するか詳細に検討するため、定期同額給与について定めた法人税法第34条を確認します。
その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与
ここから分かることは、条文上では「支給額が同額」という表現が使用されており、「日本円による支給額が同額」という表現ではないことです。
すなわち「BTCベースによる支給額が同額」でも法人税法第34条の要件を満たし、損金算入が可能と考えます。
そもそもこのようなルールが存在するのには理由があります。というのも、役員報酬の決定は経営者の恣意性が介入しやすいため、利益調整に使用される恐れがあるからです。毎月の報酬を一定額とするルールを設けることで、期中の業績に応じて報酬額を随時変更することで利益を調整できないように制限がかけられています。
このような立法趣旨を考えた場合、BTCベースで毎月の報酬が同額であれば、経営者の恣意性も排除されることから、定期同額給与に該当すると考えます。
ケース2:日本円ベースで毎月同額を支給する場合
つづいて、日本円ベースで毎月500,000円を支給するケースを考えます。
日本円ベースで毎月の報酬額を固定する必要がありますので、レートの変動に合わせて支給するBTCを調整する必要があります。
このケースでは、日本円ベースで毎月の報酬額が同額となりますので、法人税法34法の要件を満たすものと考えます。
ただし、「1円単位でのBTCの調整」及び「使用するレートの決定」が実務上の困難であることが弊害として考えられます。
特に2点目の使用レートについて、例えば支給時点(例えば銀行振込時刻)のレートや支給日のレートを使用することが合理的と考えられますが、いずれにせよその支給時点又は支給日にならないとレートが確定しないことから、給与計算の実務を考えると、支給日前にBTCレートを確定するのは不可能ではないでしょうか。
つまり、給与計算の締め日時点で確定するBTCレートが給与支給日時点での500,000円ちょうどになる可能性は極めて低いと考えられ、定期同額給与の要件を満たさない可能性があります。
定期同額給与は「毎月同額」である必要があり、BTCベースで毎月同額でないのであれば、日本円ベースでは1円単位で同額であることが求められます。これを鑑みると、実務的にケース2を採用することは難しいのではないでしょうか。
ビットコインによる役員報酬支給は可能か?
これまで検討したように、法人税法上、毎月のビットコインベースでの支給額が同額である限り、ビットコインによる役員報酬支給は定期同額給与の要件を満たすと考えます。
また、平成28年度税制改正では、役員報酬に関する改正として、額面給与が同額であるケースに限らず、株式報酬等の普及を後押しに、手取給与が同額であるケースも定期同額給与に該当するものとする改正がなされました。
現時点では日本円ベースでの毎月同額支給は実務的に難しいものと考えますが、ここ数年のビットコインをはじめとする仮想通貨の普及を考えると、仮想通貨による役員報酬支給の実現も決して遠い未来ではないのかもしれません。(あるいは既に導入している企業もあるかもしれませんが。)
仮想通貨による役員報酬支給が決してレアなケースでなくなった時には、役員給与税制も整備され、取り扱いがより明確になることでしょう。
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