カルロス・ゴーン氏逮捕の衝撃から2週間が経過し、諸々の報道により、その報酬の実態などが明らかになってきました。
一部報道によれば、有価証券報告書に記載されていなかった役員報酬には、退任後に受け取りを予定していた報酬や海外の高級住宅の無償使用が含まれているようです。
カルロス・ゴーン氏の逮捕容疑は、有価証券報告書の虚偽記載とされていますが、今回のブログでは、税務上の問題点について解説したいと思います。
カルロス・ゴーン氏(個人)が抱える税務上の問題点
まず、カルロス・ゴーン氏個人の税務上の問題点として、所得の申告漏れの可能性が挙げられます。
仮にカルロス・ゴーン氏が居住者に該当する場合、国内外で得た所得は日本で申告及び納税をする必要があります。
例えば、日産の子会社が海外で保有する高級住宅をカルロス・ゴーン氏が無償で使用していた場合、その適正な賃貸料が役員報酬としてみなされ、日本で課税の対象となります。
有価証券報告書に賃貸料を含めていなかったということは、カルロス・ゴーン氏個人の確定申告書上でも賃貸料を含めていなかった可能性が考えられます。
この点、日産の西川広人社長は19日の記者会見で「日本で納税していたと思っている」と語っていたものの、その真偽は明らかでありません。
なお、海外の住宅使用料を日本の確定申告書に含める必要があるのは、カルロス・ゴーン氏が日本の「居住者」に該当する場合に限ります。
「居住者」とは、「国内に住所を有し、又は、現在まで引き続き1年以上居所を有する個人」をいい、住所は、「個人の生活の本拠」をいいます。
「個人の生活の本拠」の判定は住居地だけでなく、国籍や資産の所在、仕事や親族の居住実態など客観的事実によって判断されます。
カルロス・ゴーン氏の場合、日本、フランス、レバノンそしてブラジルなど、世界中に住居を持ち、それぞれの場所で一定期間を過ごしていたと考えられますので、一概に日本の居住者に該当するとは限りません。
ただし、日産及び三菱自動車の会長職に就いていたことを鑑みると、年間の滞在期間等によれば、日本の居住者に該当すると判断される可能性は十分にあると考えられます。
カルロス・ゴーン氏が日本に居住者に該当する場合、日本では全世界所得を申告し、海外で支払った税金が生じた場合、外国税額控除により二重課税は軽減されます。
日産(会社)が抱える税務上の問題点
会社が役員に報酬を支払う場合、居住者/非居住者を問わず、その報酬の支払時に源泉徴収義務が発生します。
したがって、カルロス・ゴーン氏のケースでは、海外の住宅無償使用分についても、日本で源泉徴収を行う必要があります。
記載されなかった疑いがある報酬のうち、海外の住宅無償使用分が日産からの報酬と認定されれば、日産が適切に所得税を源泉徴収しなかったとして、ペナルティ課税の対象になり得ます。
この場合、不納付加算税をはじめとした多額の追徴課税を受ける可能性が考えられます。
なお、退任後に受け取りを予定していた報酬については、実際に支払われたものでないため、確定申告や源泉徴収義務は生じず、税務上の問題は発生しないと考えられます。
まとめ
以上、今回のブログでは、カルロス・ゴーン氏の有価証券報告書虚偽記載問題について、税金の観点から問題点を解説しました。
今回の問題では、あまり税金上の問題点が話題になっていませんが、やはり、これだけの規模の容疑ともなると、個人と会社双方に税務上の問題が生じることが分かります。
まだまだ詳細は明らかになっていませんが、今後も引き続き報道を注視し、必要に応じて解説したいと思います。