「給料の半分は税金でもっていかれる」
こんなフレーズ耳にしたことはありませんか?特に芸能人やスポーツ選手など、高所得者の方がよくいうセリフですよね。最近では、年収1,000万円クラスの高収入サラリーマンでもこのような発言をする人がいます。
確かに日本の現行の最大所得税率は45%、住民税率は10%なので、単純計算によれば税率は55%となり、所得の半分以上は税金となりそうです。
しかし、所得税および住民税の計算はそこまで単純ではありません。正確に計算すれば、所得の半分が税金というケースは本当にごく一部の超高所得者にしか当てはまらない現象であることが分かります。
今回のブログでは、「給料の半分は税金でもっていかれる」という勘違いを、数字を使いながら反論しつつ、特に一般的なサラリーマンは実際にどのくらいの税金が課せられているのかを検証したいと思います。
サラリーマンの税金の仕組みについてはコチラ↓
Contents
所得税の税率を確認しよう
まずは所得税の税率表を確認してみましょう。所得税の税率表は国税庁のウェブサイト(所得税の税率)で確認できます。
この表を見る限り、最高税率は45%、住民税は原則として10%なので、合計55%が最高税率となり、1,800万円超の場合でも40%の所得税率が適用されますので、1,800万円超であれば住民税との合計税率は50%以上となります。
では、年収1,800万円以上であれば、「給料の半分は税金でもっていかれる」ということになるのでしょうか?そうではありません。具体的に説明します。
よくある勘違いとは?
勘違いその①~「収入」と「所得」の違いを分かっていない~
「収入」と「所得」の違いとはどういうことでしょうか?もう一度所得税の税率表を確認してみましょう。
赤枠で囲った部分を確認してみると「課税される所得金額」とあります。つまり、この税率のレンジはあくまでも「年収」ではなく「課税される所得金額」によって異なるのです。
よくある勘違いとして、自分の年収を「課税される所得金額」として、この税率を適用する方がいるのですが、これは明確に誤りです。
では、「年収」と「課税される所得」の違いは何なのでしょうか?
この図のように、「課税所得」は「年収」から給与所得控除および所得控除を差し引いて計算されます。
所得税のように、「所得」に対して課せられる税金は、「収入」から「経費」を差し引いた「(課税)所得」に税率を乗じて計算しますが、この場合、「年収(給与収入)」と「収入」、「経費」と「給与所得控除」「所得控除」がそれぞれ対応関係にあります。
したがって、常に「年収(給与収入)」>「(課税)所得」という式が成り立ちます。
つまり、所得税の計算の基礎である「課税される所得金額」は常に「年収」よりも小さい金額となるのです。
例えば年収500万円のサラリーマンであれば、所得税率表の「330万円~695万円」ではなく、ここから更に「給与所得控除」と「所得控除」を差し引いた金額(例えば195万円~330万円)の行が適用されます。
これを平たく言ってしまえば、「適用される税率はそれほど高くない」のです。
給与所得控除は年収、所得控除はその人の状況によって金額が変わりますが、私の試算では、多くのサラリーマンの場合、控除の合計額は年収に対して40%~60%に上ります。つまり、「年収」の60%~40%程度が「課税される所得の金額」となり、税率表であれば一段~二段下の税率が適用されるイメージとなります。
勘違いその②~控除額を考慮していない~
あらためて所得税の税率表を確認してみましょう。
赤枠で囲った部分に「控除額」とありますね。これは、「課税される所得金額」に「税率」を乗じた後、控除される金額です。
例えば「課税される所得金額」が5,000,000円であれば20%を乗じた1,000,000円から427,500円を差し引いた573,500円が所得税額となります。
1,000,000円に対して427,500円を控除するのですからインパクトは非常に大きいですね。仮にこの「控除額」を考慮しなければ40%以上の差額が生じてしまいます。
したがって、「課税される所得」に税率をかけた後、この控除額を考慮しないと正しい税額は計算できません。
そもそもこの「控除額」とは何のためにあるのでしょうか?
日本をはじめ、多くの国では所得税について「超過累進税率」が適用されます。超過累進税率は、累進税率の一つで、課税標準が一定額以上となった場合に、その超過金額に対してのみ、より高い税率を適用するものをいいます。
具体例でみてみましょう。課税所得1,000万円の例で確認します。
所得税の税率表によると、課税所得1,000万円の税率は33%ですが、1,000万円の全額に対して33%の税率が適用されるわけではありません。
195万円までは5%が適用、195万円から330万円までは10%が適用というように、段階的に適用される税率が高くなります。
「控除額」により、税率が低いレンジの税額を調整することで。この超過累進税率を実現することができるのです。したがって、「控除額」を適用しない限り、「超過累進税率」ではなく「単純累進税率」となり、正しい所得税額が計算されません。
実際の税金はどれくらいになる?
このように、二つのよくある勘違いにより、一般的には所得税額の負担が重いと考えてしまいがちです。では、実際の税負担はどの程度になるのでしょうか。年収300万円から年収1,000万円まで100万円きざみでシミュレーションをしてみます。
赤枠で囲った「税負担率」の行を確認してみましょう。意外と税負担率は低くないでしょうか?
高所得の基準である年収1,000万円のサラリーマンでも、13,72%の税負担率にとどまっていますし、年収700万円以下であれば、税負担率は10%にも届きません。
年収1,000万以上のサラリーマンは100人に4人程度しか存在しないとされていますので、このシミュレーションから、大半のサラリーマンの税負担率は14%にも満たないことが分かります。
なぜ税負担率がそれほど高くならないかというと、上述したように、超過累進税率や所得控除が適用されることが挙げられます。
なお、このシミュレーションは、控除額が最も少ない(税負担が最も重くなる)保守的な方法を採用しています。したがって、配偶者控除や扶養控除等が適用される場合、さらに税負担率は低くなります。
なぜ税金が高いと感じるのか
シミュレーションにより、「給料の半分は税金でもっていかれる」という現象はほとんどみられないことが分かりました。
では、実際の税負担はそれほど高くないにもかかわらず、なぜ「税金が高い」と感じてしまうのでしょうか。
その理由の一つは社会保険料負担でしょう。社会保険料は厳密には「税金」ではなく、「健康保険」「介護保険」「雇用保険」「厚生年金」で構成されますが、給与から源泉徴収されるという意味では、税金とひっくるめて語れるものでもあります。
社会保険を含めた負担率は、シミュレーションの一番下の行に表示しています。年齢や地域によって社会保険料率は異なりますが、社会保険料は、給与に対して概ね15%程度の負担率となります。社会保険料には控除額等がないため、所得税のような控除はなく、単純に15%を加えた数字が合計負担率となります。
例えば年収1,000万円であれば28.72%が合計負担率となり、年収の30%弱が徴収されることとなります。それでも半分には程遠いものの、確かに負担を実感できる水準となりそうです。
繰り返しとなりますが、社会保険料は税金ではありません。しかし、納税者の実感として社会保険料を税金の一種ととらえることは十分に理解されます。
ただし、社会保険料を含めたとして、年収1,000万円でも合計負担率は30%程度にとどまることを理解する必要があるでしょう。
まとめ
今回は、サラリーマンの税負担をシミュレーションすることで、「給料の半分は税金でもっていかれる」という勘違いについて反論を試みました。
年収数千万クラスであれば、社会保険料を含めた合計負担率は半分に到達する可能性もありますので、「給料の半分は税金でもっていかれる」ということがあるかもしれません。
しかし、今回の検証で、少なくとも一般のサラリーマンであれば、税負担は15%以下、社会保険料を含めたとしても合計負担は30%以下となることが分かりました。「税金が高い」「給料の大半が税金でなくなる」と考えていた方に対しては、今回のブログで、ご自身の実際の税負担水準について理解頂ければと思います。
[…] (引用:ashの税務研究所) […]