10月2日より2017年ノーベル賞受賞者が続々と発表されていますね。日本では、村上春樹氏のノーベル文学賞受賞が毎年話題に上がりますが、今年は日系英国人のカズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞しました。
ノーベル賞受賞者に対しては賞金として800万円スウェーデンクローナ(約1億円)が与えられますが、今回はこの賞金に対する税金について解説します。
ノーベル賞の賞金は非課税?
これは有名な話かもしれませんが、所得税法では「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」は非課税であることを定めているため、日本ではノーベル賞の賞金は所得税が非課税となります。
また、ノーベル賞には、「物理学」「科学」「生理学・医学」「文学」「平和」及び「経済」の5+1の分野がありますが、このうち「物理学」「科学」「生理学・医学」「文学」「平和」については、ノーベル基金から賞金が与えられます。一方、「経済」については、厳密にはノーベル賞ではなく、スウェーデン国立銀行が設立300年祝賀の一環として設立したものですので、スウェーデン国立銀行から賞金が与えられます。
したがって、ノーベル経済学賞の賞金は「ノーベル基金から交付される金品」ではないため、非課税所得に該当せず、課税対象となってしまいます。なお、ノーベル賞の歴史上、日本人がノーベル経済学賞を受賞したことはありませんので、現時点で課税対象となったことがある人は存在しません。
そもそもノーベル基金からの賞金が非課税となったのは、1949年に湯川秀樹氏が日本人で初めてノーベル賞を受賞した際に、賞金に対する課税について議論が起こったことが背景にあります。1949年の時点ではノーベル経済学賞が設立されていなかったため、条文に則るとノーベル経済学賞の賞金は課税対象となりますが、今後ノーベル経済学賞を受賞する日本人が現れ次第、この条文も改正されると考えられます。
米国での取扱いは?
では最もノーベル賞受賞者を輩出している米国の取扱いはどのようになるのでしょうか?
念のため、ノーベル賞受賞者数ランキングの上位国について確認したいと思います。2016年までの受賞者数ランキングの上位国を確認しましょう。
引用:国別のノーベル賞受賞者数ランキング(1901年〜2016年)
やはり先進国が上位を占めていますが、日本は7位と健闘していますね!ダントツの首位はやはり米国です。
結論から言うと、米国では日本と異なり、ノーベル賞の賞金は課税対象となります。これに対しては米国内でも議論があるようで、米国の経済誌Forebesの記事ではこれについて詳しく述べています。
Sorry Olympians, Even Nobel Prizes Are Taxed
ノーベル賞賞金の他、例えば日本では非課税となるオリンピックの賞金なんかも米国では課税されてしまうようです。
オバマ氏も所得税を払った?
2009年に全大統領のバラク・オバマ氏がノーベル平和賞を受賞したことは記憶に新しいですが、オバマ氏も賞金に対する税金を支払ったのでしょうか?オバマ氏の実際の確定申告書で確認してみましょう。
なお、米国では1970年代以降、慣例的に大統領及び大統領候補が自身の確定申告書(Form 1040)を公表するという文化があります。自身の税に対する透明性の訴求ですね。一方で現任のドナルド・トランプ大統領は確定申告書を公表しないと明言し、今年の初めにニュースになりました。その後、トランプ大統領の2005年の確定申告書が流出するなどの騒ぎがありましたね。
トランプ大統領、172億円の所得 2005年の納税申告書が流出
では、オバマ氏がノーベル平和賞を受賞した2009年の確定申告書をみてみます。
こちらが2009年のオバマ氏の確定申告書です。2枚目の下部にオバマ氏とミシェル夫人のサインも確認できますね。
日本と異なり、米国の確定申告書は枚数が非常に多く、オバマ氏のように多くの所得や控除項目がある納税者の場合、確定申告の枚数が数十枚に渡ることも珍しくありません。上の確定申告書はForm 1040と呼ばれるメインの様式で、ここから収入や控除項目が確認できます。
例えば、給与収入は1枚目のLine7に記載されており、この年のオバマ氏の大統領としての給与収入は$374,460であることがわかります。世界で最もストレスフルな仕事である米国大統領の年収が約4千万円というのは少し低いような気がしますね。。
なお、オバマ氏の場合、大統領としての給与収入以外にも事業所得で約500万ドルの収入がありますので、最終的な納税額は2枚目のLine60にあるように、約180万ドルとなっています。
では、ノーベル賞の賞金はどこに計上されているのでしょうか。賞金は当時のレートで約140万ドルですが、申告書上ではそれに相当する金額の記載がありません。先ほど述べたように、米国ではノーベル賞の賞金は課税され、また大統領に特別な免除が与えられているわけではありませんので、申告書のどこかに記載がないとおかしいですね。
これにはカラクリがあり、オバマ氏は賞金を全額ハイチ大地震の被災地などに寄付したため、課税対象所得として認識されていないのです。
米国には「ノーベル賞の賞金を直接寄付した場合、賞金を課税所得として認識しなくて良い」という免除規定があります。ポイントは「直接」という部分で、ノーベル基金から直接被災地に寄付される必要があります。仮にオバマ氏が一度賞金を受け取った後、オバマ氏個人から被災地へ寄付をした場合、寄附金控除限度額により、最大調整後所得の50%までしか控除がとることができません。したがって、この免除規定を使わない場合、賞金の半額は課税されてしまうのです。
オバマ氏の例では、免除規定を使用した場合、賞金に係る税金は0ですが、免除規定を使用しなかった場合、140万ドルの50%である70万ドルが課税対象となってしまいます。
この点について、前述のForbesの記事では、寄付によるイメージアップとある種の課税逃れを両立したクレバーな方法だと評価(揶揄?)しています。
つまり、米国でのノーベル賞賞金の取扱いは、「原則課税対象だが、寄付の免除規定が設けられている」という結論となります。
まとめ
今回の記事では、日米におけるノーベル賞賞金に対する税金の取扱いについて確認しました。
日本ではノーベル経済学賞を除き、賞金は非課税ですが、米国は原則課税と国によっても取扱いは異なります。そういった意味では、ノーベル賞の賞金に対する税制の整備という点においては、日本の方が研究者の方々への配慮があるのかもしれません。
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