先日国税庁よりQ&A「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」が公表されました。Q&Aでは納税者が疑問を抱える具体的な計算方法を一問一答形式で解説しています。Q&Aでは具体的な計算方法が実際の数字を用いて分かりやすく解説されていますので、今回のブログでは要点と実務的に論点となりそうな部分を取り上げたいと思います。
Contents
1. 仮想通貨の売却
仮想通貨を日本円で売却した時点で損益が実現し、譲渡価額と取得価額の差額が所得金額となります。仮想通貨の売却時には、通常仮想通貨建で手数料がかかりますが、Q&Aでは支払手数料を含むシンプルな計算方法が例示されています。この手数料は、所得金額を算定する上で必要経費として認められると考えられますが、どの時点のレートを用いて円換算するかという実務的な論点があります。仮想通貨売却手数料は売却時のレートを用いて円換算することとなると考えられますが、例えば仮想通貨取得時の手数料は取得価額に含めるのか、または手数料として独立させ、取得時あるいは売却時のレートのいずれかを用いて円換算するのか選択の余地があると考えられます。
2. 仮想通貨での商品の購入
仮想通貨により商品を商品を購入した時点で損益が実現し、購入した商品の金額と取得価額の差額が所得金額となります。例えばビックカメラなどではビットコインによる商品の購入が可能となっていますが、商品の購入時にはビットコインをビックカメラ側のウォレットに送金することとなり、頻繁に仮想通貨による商品の購入を行なっている場合、その送金が自身の別ウォレットへの送金なのかを把握しておかないと損益計算が困難となります。一方で、国税局が捕捉できるのかという疑問が残りますが、相手方の送金ウォレットを調べれば仮想通貨で商品を購入したことは簡単に把握されると考えられます。
3. 仮想通貨と仮想通貨の交換
仮想通貨と他の仮想通貨の交換(仮想通貨による仮想通貨の購入)をした時点で、仮想通貨の損益が実現し、その他の仮想通貨の取得価額とその仮想通貨の取得価額の差額が所得金額となります。例えば日本円で購入したビットコインをもってイーサリアムを購入した場合、ビットコインのイーサリアムへの交換時点が損益の実現のタイミングとなります。実務的には、次に紹介する取得価額の決定及び手数料の取り扱いに留意が必要となりますが、この例においては、ビットコイン取得時の手数料は取得価額に算入し、イーサリアム取得時(ビットコイン売却時)の手数料は、その時点のビットコインのレートをもって必要経費に算入するのが合理的と考えられます。
4. 仮想通貨の取得価額
売却した仮想通貨の取得価額の計算方法は、移動平均法が相当としながらも、継続適用を前提に総平均法も認められるとしています。昨年のように、仮想通貨のマーケット全体が上昇傾向にあるときは、そう平均法を用いることで所得金額を圧縮できる可能性が高いですが、来年以降を見据えた場合、最終的にその仮想通貨を売却した時点で、移動平均法または総平均法のいずれを選択したとしても通年の損益計算の結果に影響を与えないことに留意が必要です。また、総平均法のみ継続適用が求められるとも解される書き振りとなっていますが、棚卸資産や有価証券などでも、通常はすべての計算方法に継続適用が求められるため、2017年の損益計算を移動平均法で行なった場合は、2018年以降も原則的に移動平均法を採用すべきと考えられます。
5. 仮想通貨の分裂(分岐)
仮想通貨の分裂により付与される仮想通貨(ビットコインキャッシュなど)は、その分裂時(厳密にはウォレットへの付与時)には、その分裂仮想通貨の価値は0であるため、付与に対しては所得金額を認識する必要はありません。なお、分裂でなく、例えば配当の様な形式で付与される仮想通貨(KCSなど)は、法人から新たに仮想通貨を付与される場合に限り、所得税の所得金額を構成するものと考えられます。
6. 仮想通貨に関する所得の所得区分
下の記事でも解説しているとおり、仮想通貨取引により生じた損益は、原則的に雑所得を構成すると考えられます。仮想通貨取引が事業として行われる場合又は事業に付随して行われる場合には事業所得に該当する可能性もありますが、給与所得者が勤務時間前後や休日に行う程度であれば、事業所得には該当し得ず、雑所得として申告する必要があると考えられます。なお、これに関連して、仮想通貨取引により生じた損失は、給与所得等の他の所得と損益通算を行うことが認められず、また、損失の繰越しも認められません。
まとめ
昨年12月に国税庁のQ&Aが公表されて以来、様々な計算パターンや実務上の問題点を検証してきましたが、まだ個人的に潰しきれていない論点も残っています。一般の納税者が細かな計算を自分自身で行うことは非常に困難と考えられ、また誤った計算による申告は重いペナルティの対象となる恐れもありますので、税理士等の専門家と相談しながら、正しい申告納税を行うことを心がけましょう。