先日こんな記事がYahooニュースにあがっていました。
私はこのニュースを目にした時に「出国税はもう導入されてるのでは?」と思ったのですが、記事を読むと私の頭に浮かんだ出国税とは別の出国税が議論されているようです。
そこで今回は2つの「出国税」について解説したいと思います。
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「出国税」はすでに導入されている!
出国税とは?
私はこの記事には若干ミスリードがあるように感じています。というのもすでに「出国税」は日本で導入されているからです。
出国税とは通称であり、正しくは「国外転出時課税制度」といいます。
国外転出時課税制度の概要は国税庁のホームページに詳しく記載されていますが、そこから引用すると、つぎのような制度と説明できます。
国外転出時課税制度は、平成27年度税制改正において創設され、次の(1)から(3)までに掲げる時において、一定の居住者が1億円以上の有価証券等の対象資産を所有等している場合に、次の(1)から(3)までに掲げる時に対象資産の譲渡等があったものとみなして、対象資産の含み益に対して所得税が課税される制度です。
(1) 対象者が国外転出をする時
(2) 対象者が国外に居住する親族等(非居住者)へ対象資産の一部又は全部を贈与する時
(3) 対象者が亡くなり、相続又は遺贈により国外に居住する相続人又は受遺者が対象資産の一部又は全部を取得する時
やや難解な文章ですが、ひらたく言うと「時価1億円の株式を保有して国外移住した場合、その株式を譲渡したものとみなして課税する」という制度です。
字面では伝わりにくいですが、これは非常に厳しい制度です。厳しい制度にもかかわらず、税金に馴染みのない方へはあまり浸透しておらず、この制度の存在を知らずに国外移住をして、多額の追徴課税を受ける資産家が現れないかということを私は懸念しています。
誰が対象になる?
具体的には、資産家やベンチャー企業の創業者などがこの制度の対象になると考えられます。
例えば、ベンチャー企業の創業者が自身が起業した会社を上場までこぎつけ、保有する株式に莫大な価値が生まれたとします。いわゆる創業者利益です。
この創業者は日本で株式を譲渡すると多額の税金(税率20%)が発生することから、キャピタルゲイン課税のないシンガポールへの移住を考えました。
出国税が創設されるまでは、このようなケースであれば、日本でキャピタルゲイン課税を免れることができたのですが、出国税の導入により、出国時に保有する株式に対してみなしのキャピタルゲイン課税がなされることとなりました。
※なお、正確には日星(シンガポール)租税条約第13条の適用により、創業者が保有する株式はシンガポールで譲渡したとしても日本で課税される可能性が高いと考えられます。この点はまた別の記事で解説したいと思います。
影響は?
上述したようにこの出国税は株式の譲渡によるキャッシュインがないのに多額の税金が課される可能性がある点で、非常に厳しい制度といえます。
また、時価1億円の株式を保有していることが要件となりますので、適用対象者は一部の富裕層などに限られるものと考えられますが、課税された時のインパクトも大きいため、税務当局による制度周知の徹底が望まれるところです。
新「出国税」とは?
既存の出国税とは異なる!
一方、上記記事における出国税とは、一種の観光税であり、日本から出国する個人を対象に一律固定額を徴収するものとされています。
日本から出国する個人とは、海外へ出国する日本人に加え、旅行で日本に訪れている外国人も想定されます。
2016年の実績によると、訪日客と出国する日本人の合計は4千万人にものぼるため、仮に一人当たり千円を徴収したとしても、出国税収額は400億円にものぼることから、観光財源として決して少なくない影響があるものと想定されます。
海外での導入実績は?
出国税(Departure tax)は海外のいくつかの国ですでに導入されており、例えばオーストラリアではオーストラリアからの出国時に60豪ドル(約5千円)が課税されます。
Travellers set to pay a $60 departure tax
その他韓国などでも同様の制度があるようですが、世界的には導入実績の少ない制度といえます。
まとめ
今回は2つの異なる出国税について解説しました。課税制度としての毛色は異なるものの、国境をまたぐという行為に対する課税という意味では同じ性質をもつと言えるかもしれません。
しかし、冒頭でも述べたように、すでに通称「出国税」が存在しますので、少なくとも新「出国税」の名称は検討が必要と考えます。
また、新「出国税」の導入についても、観光財源確保の目的が第一にありきとなるのではなく、その税金を課す確かなインセンティブを設けない限り、国民や訪日客の理解は得られず、観光立国としてのプレゼンス確立の実現は遠のいてしまうのではないでしょうか。
新「出国税」の導入にあたっては、慎重な議論が望まれるところです。
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