最近のインデックスファンドは低コストなものが多く、ついには信託報酬が0.1%台の商品(三菱UFJ国際投信のeMAXISシリーズ)も登場しています。
インデックス投資家の最大の興味の一つはこの信託報酬の水準だと思いますが、もはや信託報酬の引き下げ合戦は0コンマ2桁の世界に突入しています。長期の資産運用を基本とするインデックス投資は、信託報酬の差が将来のパフォーマンスに大きく影響しますので、投資家もこの多寡を厳しく判断します。
しかしながら、同じく投資にかかるコストである税金はどうでしょうか?日本は投資に対する税制の環境が整っており、特に多くの条件下において同じ税率で源泉徴収による課税が完結することから、あまり税金をコントロール可能なコストとみる風潮はないように感じています。
しかし、ケースによっては、課税の方法等によって負担する税金が変動し、信託報酬以上に将来のパフォーマンスに影響を与える可能性があります。今回のブログでは、インデックス投資を前提とした節税戦略について紹介します。
Contents
投資に対する課税のキホン
課税の仕組み
節税戦略を練るためには、投資に対する税金の基本を理解する必要があります。言い換えると、「いつ」「何に対して」「どのように(所得の種類)」税金が課せられるのかの理解です。特にインデックス投資においては、投資信託の元本売却と分配金(配当金)に対する課税を考える必要があります。
なお、分配金のうち、「普通分配金」については課税の対象となりますが、「特別分配金」は元本の取り崩しであるため、課税の対象となりません。
投資信託 | 普通分配金 | |
いつ課税される? | 投資信託の売却時 | 分配金の受け取り時 |
何に対して課税される? | 投資信託の売却益(譲渡対価ー取得費等) | 普通分配金 |
所得の種類は? | 譲渡所得 | 配当所得 |
それぞれ上記表のとおりの形式で課税されます。目新しい情報ではありませんが、投資と税金の基本を理解する上では重要な項目と考えます。
税率と税金の徴収方法は?
税金は投資におけるコストなので、そのコストの発生要因となる課税の方法と税率、徴収方法への理解も重要です。これも投資信託の元本と普通分配金(配当金)に分けて整理します。
投資信託 | 普通分配金 | |
課税の方法 | 分離課税 | 分離課税(総合課税も可) |
税率 | 20.315% | 20.315% |
徴収方法(納税のタイミング) | 源泉徴収(確定申告も可) | 源泉徴収(確定申告も可) |
なお、「分離課税」は、その所得単独で税金を計算する方法、「総合課税は」他の所得と合算して税金を計算する方法と理解しましょう。
特定口座と一般口座を理解しよう
納税のタイミングは「源泉徴収時」か「確定申告時」のいずれかとなります。源泉徴収を選択するためには、証券口座を「特定口座」にする必要があります。
証券口座の種類には、「特定口座」と「一般口座」がありますが、この設定方法によって、納税のタイミングが変わることとなります。
(出所:SBI証券)
特定口座と一般口座の違いは上の表のとおりですが、口座の種類は大きく3つに分かれます。
「源泉徴収あり」の特定口座を選択すれば、取引ごと(投信信託の売却時及び普通分配金の受領時)に証券会社が20.315%の税率で税金を徴収し、投資家に代わって当局に税金を納付するため、そこで課税は完結し、原則として確定申告も不要となります。
「源泉徴収なし」の特定口座や一般口座を選択すれば、証券会社は税金を徴収しないため、源泉徴収が発生せず、原則として確定申告が必要となります。
戦略其の一 源泉徴収あり/なしの選択
上述のとおり、「源泉徴収あり」の特定口座を選択すれば、原則として確定申告は不要となることから、特に確定申告に慣れていない方は確定申告にかかる手間などを考えて「源泉徴収あり」の特定口座を選択することが推奨されます。なお、理由は後述しますが、結果として私も「源泉徴収あり」の特定口座を選択しています。
「源泉徴収あり」を選択すると、取引ごとに税金が徴収されてしまいますが、年間を通じた投資家の状況によっては、その取引時に徴収された税金は本来負担しなくてもいい税金であったというケースが考えられます。
具体的には以下のケースにおいて、「源泉徴収なし」を選択した方が有利になる可能性があります。
・ 給与収入(年収)が1,100万円未満
・ 年間の投資信託売却益と普通分配金の合計額が20万円以下である給与所得者
・ 他の証券口座を保有し、いずれかの口座で損失が見込まれる
それぞれ詳しく解説します。
給与収入(年収)が1,100万円未満
確定申告をすることで、普通分配金(配当金)は総合課税の対象とすることができます。
総合課税の場合、税率は住民税を含めて概ね15%~56%の累進税率が適用されますので、この累進税率が源泉税率である20.315%を下回る場合、確定申告をした方が有利となります。
上記の表(筆者作成)によれば、給与収入が640万円未満(課税所得330万円未満)の場合、源泉徴収を選択せずに確定申告をしたほうが税コストを低減できます。
なお、特に給与収入の金額は複数の前提を置いて計算した金額となります。所得控除はその人ごとに金額が異なりますので、あくまでも目安とお考え下さい。所得控除が最も少ない、保守的な方法で計算しています。
しかし、この計算はすべてのケースに使えるわけではありません。というのも、普通分配金(配当金)があり、かつ確定申告をした(総合課税を選択した)場合、配当控除という制度により、さらに税率を低減することができます。配当控除の計算は複雑ですが、端的には、次のような制度と説明できます。
- 課税所得1千万円以下の場合:12.80%(所得税率10%+住民税率2.8%)の所得控除
- 課税所得1千万円超 の場合:6.40%(所得税率5%+住民税率1.4%)の所得控除
仮にインデックス投資に関する所得がすべて普通分配金(配当金)で、かつ、確定申告による総合課税を選択した場合、配当控除を考慮して判定を行います。
配当控除を反映した結果、給与収入1,100万円(課税所得695万円)以下の場合、源泉徴収を選択せずに確定申告をしたほうが税コストを低減できます。
年収1,000万円以上の給与所得者の割合は全体の4%程度ですので、大半の人が確定申告をし、総合課税を選択したほうが有利になる結果となりました。
なお、この判定はあくまでもインデックス投資に関する所得がすべて普通分配金(配当金)である場合の判定という点に留意が必要です。投資信託売却益が発生する場合には、一つ上の表や二つの表を見比べながら、個々に判定が必要となります。
年間の投資信託売却益と普通分配金の合計額が20万円以下である給与所得者
給与所得者(会社員)は、年末調整により課税が完結するため、多くの場合で確定申告義務が生じません。しかし、次のいずれかに該当する場合には、確定申告をする必要があります。
- 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
- 1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人
- 2か所以上から給与の支払を受けている人で、主たる給与以外の給与の収入金額と給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人
つまり、勤務先が一か所で、かつ年収が2,000万円以下であることを前提とすれば、給与所得以外の所得が20万円を超えない限り、確定申告義務はありません。(ほとんどの会社員投資家はこの前提に該当するでしょう)
ここにいう給与所得以外の所得とは、インデックス投資においては投資信託売却益と普通分配金(配当金)の合計額となります。
つまり、これらの合計額が20万円を超えない限り、原則として確定申告義務はないのです。
例えば、上述のとおり、「源泉徴収あり」の特定口座では、取引ごとに20.315%の源泉税が課されました。一方、「源泉徴収なし」の特定口座では、源泉税は課されませんが、確定申告により納税する必要があると説明しました。
しかし、この「源泉徴収なし」の特定口座を選択した場合でも、投資信託売却益と普通分配金の合計額が20万円を超えなければ確定申告義務がありません。
これはつまりどういうことでしょう。具体例でみてみましょう。
・投資所得 200,000円
・「源泉徴収あり」の特定口座を選択済
この場合、「源泉徴収あり」の特定口座を選択していますので、200,000円 × 20.315%=40,630円が源泉徴収されています。
課税はこれで完結するので、確定申告をする必要がなく、40,630円の税負担となります。
次に
・投資所得 200,000円
・「源泉徴収なし」の特定口座を選択済
この場合、「源泉徴収なし」の特定口座を選択していますので、源泉徴収税額は0となります。
本来は確定申告により、(分離課税を選択した場合)20.315%の税率が課され、源泉徴収された場合の同額である40,630円が課税されます。しかし、給与所得以外の所得(投資所得)が20万円以下であるため、確定申告義務が発生しません。
つまり、投資所得が20万円以下である場合、「源泉徴収なし」の特定口座を選択した場合、40,630円の節税となります。
インデックス投資の場合、売買の回数が少ないことから、投資所得の金額はコントールしやすいと思います。もし投資所得が20万円を下回ることが明白であれば、「源泉徴収なし」を選択したほうがいいかもしれません。
源泉徴収あり | 源泉徴収なし(税率は分離課税時) | |
投資所得 | 200,000円 | 200,000円 |
税率 | 20.315% | 20.315% |
税負担額 | 40,630円 | 0円(確定申告義務なし) |
他の証券口座を保有し、いずれかの口座で損失が見込まれる
普通分配金(配当金)がマイナスになることはありませんが、当信託を売却した時は、損失が発生する可能性があります。
当然、投資信託売却損失が発生した場合、源泉徴収の対象となりません。しかし、源泉徴収は取引単位で行われるため、例えば年間の通算成績がマイナスであったとしても、個々の取引で利益が生じて入れば、その利益が生じた取引は源泉徴収の対象となります。
同一特定口座内の取引
同一特定口座内の取引の取り扱いを具体例でみてみましょう。
売却益 | 売却損 | 普通配当金 | 源泉徴収 | |
1月1日 | – | – | 3,000 | 609 |
4月1日 | 10,000 | – | – | 2,031 |
7月1日 | – | -20,000 | – | – |
10月1日 | 3,000 | – | – | 609 |
合計 | 13,000 | -20,000 | 3,000 | 3,249 |
合計 | -4,000 | 3,249 |
年間でこのような取引があった場合、トータルの損益はマイナス4,000円であるにもかかわらず、源泉徴収税が3,249円発生しています。
これは売却益及び普通分配金に対しては、その発生ごとに源泉税が徴収されることに起因します。年間を通じて損失が発生しているため、本来この投資家は3,249円を負担する必要はありません。では、この3,249円はどのように還付されるのでしょうか?
結論としては、同一特定口座内の取引であれば、確定申告をする必要はなく、証券会社が損益を通算し、損失が発生している場合には、源泉徴収税額が特定口座に還付されます。つまり、何もしなくても、3,249円が還付されることとなります。
なお、普通分配金(配当金)と投資信託売却益は通算することが可能です。
別口座間の取引
同一口座内では証券会社が損益通算を行いましたが、別口座間の取引ではどうなるのでしょうか。具体例でみてみましょう。
<特定口座A>
売却益 | 売却損 | 普通配当金 | 源泉徴収 | |
1月1日 | – | – | 3,000 | 609 |
4月1日 | 10,000 | – | – | 2,031 |
7月1日 | – | -20,000 | – | – |
10月1日 | 3,000 | – | – | 609 |
合計 | 13,000 | -20,000 | 3,000 | 3,249 |
合計 | -4,000 | 0 |
<特定口座B>
売却益 | 売却損 | 普通配当金 | 源泉徴収 | |
1月1日 | – | – | 3,000 | 609 |
4月1日 | 10,000 | – | – | 2,031 |
7月1日 | 1,000 | – | – | 203 |
10月1日 | 3,000 | – | – | 609 |
合計 | 14,000 | – | 3,000 | 3,452 |
合計 | 17,000 | 3,452 |
特定口座Aでは、4,000円の損失が生じていますが、同一特定口座内の損益は通算されるため、徴収された源泉税3,249円は還付されます。
特定口座Bでは、損失の発生した取引がないため、17,000円の利益に対し20.315%の税率で3,452円が徴収されています。
同一特定口座内の損益は証券会社が通算してくれますが、別口座間の損益通算は行われません。したがって、確定申告により、自身でマイナス4,000円と17,000円を通算する必要があります。
確定申告をした結果、17,000円 – 4,000円=13,000円が通算の利益となり、分離課税を選択した場合、13,000円 × 20.315%=2,640円が税負担額となります。したがって、すでに徴収されている3,452円と2,640円の差額である812円が還付されます。
特定口座A | 特定口座B | 通算 | |
投資所得 | -4,000円 | 17,000円 | 13,000円 |
源泉徴収 | 0円 | 3,452円 | 3,452円 |
税額 | – | – | 2,640円 |
このように、複数の証券口座を保有し、いずれかで損失が見込まれる場合には、「源泉徴収なし」の特定口座を選択し、確定申告をすることで、「源泉徴収あり」の特定口座を選択し、源泉徴収で課税を完結する場合に比べ、節税できる可能性があります。
説明をシンプルにするため、あえて正確ではない計算結果を記載しています。詳細は「住民税の確定申告」をご確認ください。
・ 年収が1,100万円未満で普通分配金(配当金)が多い場合
・ 投資所得が20万円以下の会社員
・ 他の証券口座で損失を見込んでいる場合
戦略其の二 意図的な損失の確定
最初から損失を発生させようと投資をする人はいませんが、結果的に損失(含み損)が生じた場合、そこには節税のチャンスが生まれます。
既に説明したように、同一特定口座以内であれば、利益と損失は通算され、利益に対して徴収された源泉税は還付されます。言い方を変えれば、損失を利益にぶつけることで税コストの低減を図ることができます。
インデックス投資においては、毎月決まったファンドを購入し続ける方法(ドルコスト平均法)が最もポピュラーな戦略です。したがって、基本的には投資信託の売却は想定されず、売却しない限り(含み損であり続ける限り)損失が確定しないため、あまり損益通算を意識することはありません。
しかし、現に私がそうなっているのですが、積み立てを開始した当初は数年~十数年といった長いスパンで購入することを決めたにもかかわらず、低調なパフォーマンスや昨今の低コスト化の波にのまれ、もはや魅力的でないファンドを保有してしまっているケースがあります。
そのような場合、そのファンドは概して含み損を抱えているのですが、このファンドを手放すタイミングに留意が必要です。
この含み損は実現(売却)したタイミングで損失が確定しますので、他に保有しているファンドで含み益となっているものの売却のタイミングで含み損ファンドを売却することが推奨されます。
これが損失を利益にぶつけるということの意図です。
仮に利益にぶつけることなく損失を確定させてしまい、かつ確定申告による損失の繰り越しを怠った場合、その損失をまるまる放棄することになり、節税のチャンスを逃すこととなります。
よくみかけるのは、含み損が含み益に好転するまでファンドを保有し続けるという意見ですが、投資においては時に損切も重要です。
含み損として保有し続けるということは、そのファンドの保有額が塩漬けにされるということですので、その間、再投資の機会を逸することとなります。明確に含み益に転じるというビジョンがないのであれば、他のファンドの利益を確定させるタイミング(同一年内)で、損失も確定させてしまうべきでしょう。
・ 他のファンドの利益を確定させるタイミング
「源泉徴収なし」の落とし穴に気を付けよう
いくつかのケースで、「源泉徴収なし」の特定口座を選択することで節税のチャンスがあることを説明しましたが、特に次の要件に当てはまるインデックス投資家は検討が必要です。
・本業は会社員
・年収1,100万円未満
・年間投資所得20万円以下
多くの個人インデックス投資家がすべての要件にあてはまるのではないでしょうか?私もその一人です。
ということは、この要件に該当するインデックス投資家は「源泉徴収なし」の特定口座を選択するべきなのでしょうか?実はそうではありません。前述したとおり、現に私も「源泉徴収あり」の特定口座を選択しています。
なぜ必ずしも「源泉徴収なし」を選択すべきでないかを解説します。
住民税の確定申告
年間の給与所得以外の所得が20万円以下の場合、確定申告義務がないことを説明しましたが、ここにはトリックがあります。
というのも、確定申告義務がないのは、所得税(国税)に限るのです。つまり、住民税(地方税)の申告義務が生じます。
この点は本当に多くの方が誤解しているのですが、住民税は1円でも投資所得が生じている場合、原則として申告義務があるのです。
ひとえに「税金」といっても、厳密には国に納める税金である「所得税」と、地方自治体に納める税金である「住民税」に区分されます。投資所得に対する税金も例外ではなく、投資家が納める税金の一部は住民税を構成します。
つまり、投資所得が20万円以下であった場合、所得税の確定申告義務はありませんが、住民税を計算し、申告書を提出しなければなりません。大半の人は、住民税についてなじみがなく、住民税の申告書が存在していることも知らないのではないでしょうか。
確定申告の方法は国税庁のウェブサイトで丁寧に解説されていて、税金になじみのない方でも簡単に申告書が作成できるようになっていますが、住民税は地方自治体により対応が異なるうえ、ウェブ上にノウハウが公開されていないため、自力で申告書を作成することは困難です。
なお、前述の事例では、20万円の投資所得に対し、40,630円の節税効果があると説明しましたが、このうち10,000円は住民税であるため、正確な節税効果は40,630円 – 10,000円=30,630円となります。
意外と低い税率差
「戦略其の一」の二つ目の表にあるように、給与収入が1,100万円未満の投資家は、確定申告で総合課税を選択するほうが税負担の面で有利となります。
特に給与収入が640万円未満の場合、源泉徴収との税率差は13%以上となりますので、一定の効果があると考えられます。
一方、給与収入640万円~1,100万円のゾーンでは、税率差は3%弱に減少します。
この3%という数字をどのようにとらえるかは個人の感覚次第ですが、私は大きな差ではないと考えています。具体的な検証は別の単独記事で行いたいと思いますが、確定申告の手間や配当控除の計算を考えたときに、税率3%程度の差であれば、源泉徴収で課税を完結するべきではないかとも考えられます。
・ 投資所得が20万円以下でも住民税の申告義務が生じる
・ 投資所得が20万円を超える場合、確定申告義務が生じ、配当控除の計算が必要となる
・ 年収によっては、大きな節税効果が得られない可能性がある
まとめ
以上、インデックス投資と節税戦略について解説しました。多くの投資家が税金を重要な投資コストと位置付けながらも、源泉徴収制度のおかげ?で具体的な戦略立案及び実行に至っていないのではないかと思います。
信託報酬が0.01%低いファンドを血眼になって探すよりも、節税戦略について思いを巡らす方が、時間対効果があると考えています。
とはいえ、私もまだまだ検証・実行できていない論点も多いので、このブログを通じて今後も情報発信できればと思います。