2018年1月、コインチェックより580億円相当のNEMが流出した事件に関連して国税庁よりタックスアンサーが公表されました。
タックスアンサーは、必ずしもコインチェックの件について直接言及しているわけではありませんが、タイミング等を鑑みると、多数寄せられた納税者からの照会に対応したと考えるのが自然ではないでしょうか。
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補償金の取り扱いは?
以下がタックスアンサーの全文です。仮想通貨交換業者からの補償金の税務上の取り扱いについて、Q&A形式で回答されています。
問
仮想通貨を預けていた仮想通貨交換業者が不正送信被害に遭い、預かった仮想通貨を返還することができなくなったとして、日本円による補償金の支払を受けました。
この補償金の額は、預けていた仮想通貨の保有数量に対して、返還できなくなった時点での価額等を基に算出した1単位当たりの仮想通貨の価額を乗じた金額となっています。
この補償金は、損害賠償金として非課税所得に該当しますか。答
一般的に、損害賠償金として支払われる金銭であっても、本来所得となるべきもの又は得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、非課税にならないものとされています。
ご質問の課税関係については、顧客と仮想通貨交換業者の契約内容やその補償金の性質などを総合勘案して判断することになりますが、一般的に、顧客から預かった仮想通貨を返還できない場合に支払われる補償金は、返還できなくなった仮想通貨に代えて支払われる金銭であり、その補償金と同額で仮想通貨を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果となることから、本来所得となるべきもの又は得られたであろう利益を喪失した部分が含まれているものと考えられます。
したがって、ご質問の補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となります。
なお、補償金の計算の基礎となった1単位当たりの仮想通貨の価額がもともとの取得単価よりも低額である場合には、雑所得の金額の計算上、損失が生じることになりますので、その場合には、その損失を他の雑所得の金額と通算することができます。
(引用:国税庁タックスアンサー No.1525 仮想通貨交換業者から仮想通貨に代えて金銭の補償を受けた場合)
ハイライトの部分がポイントではないでしょうか。すなわち、補償金の受領をもって、NEMを売却したものとみなすことが妥当であるとの見解です。
私のブログでは、補償金の取り扱いについて、以下のいずれかになると予想していました。
- 補償金をもってNEMを売却したとみなして雑所得
- 偶発的な収入として一時所得
- 損害賠償金として非課税所得
コインチェックの補償金に対する税務上の取り扱いは次のいずれかになると考えます
①補償金の受領をもってXEMに関する含み益が実現→雑所得/損失
②偶発的な収入として一時所得
③損害賠償金として非課税所得— ash/税金ブログ (@taxashtax) 2018年2月1日
個人的には①の確度が高く、③なんかはライブドア事件が参考になりますが、今回は単純な損失補てんではない(XEMの含み益/損が実現していない)ので、非課税所得とはならないのではないでしょうか
— ash/税金ブログ (@taxashtax) 2018年2月1日
なお、国税庁からの個別通達が発せられることを否定する専門家の方もいらっしゃいますが、ライブドア事件の際は国税庁から各国税局に通達が発せられており、賠償額の大きさを鑑みると、今回も個別通達が発せられると考えます
— ash/税金ブログ (@taxashtax) 2018年2月1日
結果的には、最も確度が高いと考えていた「補償金の受領をもってNEMの売却とする」という結論となりましたので、予想通りというところですが、これは納税者にとっては一番不利な結果ではないでしょうか。(国税庁からの個別通達は発せられませんでしたが、本件を意識したタックスアンサーが公開されました)
「強制利確」「強制ロスカット」というワードが連想されますが、この言葉通り、コインチェックがNEMを流出させたことで、NEMの保有者は自身の意思にかかわらずNEMを売却させられたこととなります。
税金の観点から、仮想通貨取引により生じた利益は「雑所得」で「累進課税」が適用されるため、最も不利な形で課税される可能性が高いと考えられます。
そのため、仮想通貨の保有者は、保有通貨の売却タイミングをシビアに判断し、税金的に有利な方法で利益と損失を確定させています。
そういった意味では、本人の意思に関係のない部分で、利益や損失が確定するのは決して受け入れがたいですね。(本記事執筆時点のNEMの価値は1XEM=約21円ですので、ある意味補償金(1XEM=88円)を受け取ってよかったという声もありますが)
まとめ
タックスアンサーが公表されてから日にちが経過していますが、当時の予想の答え合わせとして、本件を振り返りました。
これは2018年中の出来事ですので、年末にはまたこの取り扱いについて盛り上がることが予想されますが、補償金を受け取った方は、この課税関係を踏まえて仮想通貨に関する税金の戦略を練る必要がありますね。
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